給与明細書に書いている内容が間違っていた!そんな時の対応方法
従業員の立場、つまり給与をもらう立場にたてばおわかりの通り、給与明細の内容の間違いに気づいたときの従業員の心情はどんなものでしょうか。サッと冷める信頼感、沸き上がる不安感、給与という働く意義そのものの重要なものに間違いをする事業所とそこで働く自分への劣等感が生じます。大げさだと思うでしょうか。決してそうではありません。このような心情をいちど経験すると、何か他の問題(従業員の全く個人的なことでも)が生じて、「会社を辞めようか」という迷いが生まれた時に、「給与明細書にも間違いをするような会社だし」というマイナスな要素として再浮上するものです。給与に関することは働く従業員のいちばん大切な関心事です。
経営者はとかく対外的な信頼、取引先からの信頼維持にのみ心がいきがちですが、従業員との信頼関係のほうが大切だともいえるのです。従業員がいなくては、いくら良い取引先を持っていても仕事を受けることができません。よい従業員がいれば取引先も増えるでしょう。
(1) 給与明細書はミスがなくてあたりまえ
銀行通帳に記載の間違いがもしあったらどうするでしょうか。先進国ではまずありえないことですが、万一そのようなことがあったとしたらその銀行に対する信頼は一気に失墜します。その口座を解約しても仕事や生活に影響がなければ、すぐ別の銀行に口座をつくりなおすでしょう。
しかし、ハンバーガーショップで間違って注文と違う別の種類のハンバーガーを渡されたらどうでしょう。もうそのハンバーガーショップには行かない!と思うことはありません。取り替えてもらえば気が済みます。人によっては多少の苦情を言いたくなることがあるかもしれませんが。
このミスをされたときの対応や心情の違いは、そうです、お金に関することかどうかの違いです。銀行通帳の記載にミスはありえない、と多くの人が思うのと同様、給与明細書もミスがなくて当たり前、と思われているお金に関する個人にとって大切なものです。ですから多くの企業では給与明細をはじめお金に関する計算や書類作成では間違い予防の対策をほどこし、二重三重のチェックをしています。給与明細書を作成する立場に立ったら、ミスがなくてあたりまえの仕事である、という心構えが大切です。
(2) ミスが発覚した場合の対処~これ以上の信頼失墜を何が何でも防ぐ~
それでも人間がかかわることにミスは絶対ない、ということはありません。給与明細に書いてある内容に間違いがあることに気づいたら、明細書が従業員にわたる前なら早急に修正をすればよいでしょう。すでに従業員の手に渡っていたとしたら、最優先で従業員にミスがあったことを知らせ、真摯に謝罪し今後の対処について説明するしかありません。
ここで、まず修正をして正しい明細書を作成しなおしてから従業員に通知をする、というのは他の業務ではいざ知らず、給与明細に関しては信頼失墜を招きます。従業員から先に指摘され、「いま修正しているところです」というのでは、従業員に不信感を招いてしまいます。
1 まず本人に通知
まず、給与明細に間違いがあることを本人に知らせます。常識から、間違いを犯したことをきちんと謝罪することは当然ですね。ここで、なぜ間違いがおこったのか、きちんと説明することが必要です。例えば、休日出勤分の給与の加算を失念した、とか有給休暇だったのに欠勤の日数にしてしまった、などです。
さらに、これから早急に修正をして正しい給与明細を渡すこと、支給額に変動がある場合その分をどうするのかについて説明します。
このようなことは従業員にとっては他人のミスのせいで面倒なことになったと感じるものですから、それを理解して早く最優先で取り組みます。
2 速やかに修正する
給与明細で間違いをしてしまった、と思うと明細を作成した立場では、たいへん焦り緊張するのは、通常のまじめさを持つ人なら当然のことです。しかし、焦ってさらに間違いをしたのでは、従業員からの信頼はさらに薄れます。すでに従業員には通知して真摯に謝罪しているのですから、焦らず落ち着いて確認をしながら修正しましょう。
3 正しい明細書を渡す
もう間違いがないと確認できたら従業員に新たに明細書を渡します。この際、「ここの間違いはこう直しました」と従業員といっしょに明細書を確認するのもよいでしょう。
(3) 間違いで不足した支給額を、翌月の給与で調整してはいけない!
さて、給与明細書を直せば終わり、ということで済むのは支給額に変動がない場合です。しかし、そのような個所は間違いが起こりにくいもので、給与明細書に間違いあれば途中の計算もかわり、支給額に変動が起こるのがふつうです。
その結果、給与を多く払いすぎてしまった、給与が足りなかった、という場合どのように対応すれば良いでしょうか。
1 給与を少なく払ってしまった場合
結論から言えば、支給額を間違って少なく支給してしまった場合、不足額を翌月の給与で調整してはいけません。従業員は会社のミスのせいで少ない給与でひと月我慢する義務はありません。それがたとえ少額であったとしてもです。これは常識で考えればわかることですが、実は「賃金支払いの5原則」のうちの3つめ、「全額払いの原則」に違反しています。文字通り、給与は全額払わなければならない、という原則です。
具体的には、不足分を現金で支給し領収証を貰えばよいでしょう。もちろん即時に可能でしたら振り込みでも構いませんが記帳して翌営業日になってしまうことのないように、あくまで即時に受け取ることができる場合にするべきです。
2 給与を多く払ってしまった場合
現金で返してもらうことができますが、従業員に面倒をかけることにもなります。
これについては上記の原則に違反しませんので、翌月の給与で調整することも可能です。(ただし額が大きいときはすぐに回収する方がよいでしょう。)翌月の明細書に盛り込んで多く払いすぎた分を差し引きます。これについては、はじめに従業員に通知する際にそのように説明し同意してもらいましょう。何も言わずに翌月勝手に間違い分を差し引く、ということのないようにきちんと説明して信頼回復に努めます。
(4) 大切なことは間違いを繰り返さないこと
間違いは人である以上する可能性があります。大切なのはミスを繰り返さないことです。手計算を自動計算に変えたり、勤怠管理を便利にしたり、工夫をすることで間違いを予防することが大切です。