税区分表、ほんとうに理解していますか? 甲欄、乙欄、丙欄の違い
従業員やパート、アルバイトへ給与等を支払う際、源泉徴収をする所得税などの税額を決定するのが、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」です。
給与支払いの都度、すなわち多くの企業の場合、毎月の頻度で、この源泉徴収税額表を用いて徴収税額を決定しなければなりません。
源泉徴収税額表には、甲欄、乙欄、丙欄という記載がありますが、区分の違いについて、正しく理解されていますでしょうか。
どの欄を適用するかによって控除する所得税額が大きく違ってきますので、今回は各欄の意味や見方について詳しく解説していきます。
給与所得の源泉徴収税額表の種類
従業員やパート、アルバイトの給与計算をする際に、所得税の控除額を確認するために必ず使用するのが、源泉徴収税額表という税額表です。
源泉徴収税額表は、
- 給与所得の源泉徴収税額表「月額表」(「甲欄」、「乙欄」あり)
- 給与所得の源泉徴収税額表「日額表」(「甲欄」、「乙欄」、「丙欄」あり)
- 賞与に対する源泉所得税額の算出率の表(「甲欄」、「乙欄」あり)
の3種類があります。
いずれも所得税の源泉徴収の際に従業員の事情によって税額を計算するための税区分が設けられており、それぞれどのような場合に使用されるのか、理解しておくことが大切です。
給与所得の源泉徴収税額表「月額表」
給与所得の源泉徴収税額表「月額表」には、甲欄と乙欄があります。
月額票は、基本的に従業員の給与の支払方法が月ごとの場合、つまり月給の場合に使用する税額表です。ただし、変形として、10日ごと、半月ごと、隔月ごと、四半期ごと、半年ごとの場合にも使用します。
また、賞与の場合で以下の条件のどちらかに当てはまる場合には、「賞与に対する源泉所得税額の算出率の表」ではなく、給与所得の源泉徴収税額表「月額表」を使用します。
<賞与で月額表を使用する条件>
- 賞与を支払った月の前月に給料を支払っていない。
- 賞与の金額が、賞与を支払った月の前月の給料の10倍を超える。
(ペイブックでは、特例により月額表ではなく「電子計算機等を使用して源泉徴収税額を計算する方法を定める財務省告示」によって計算していますので、「月額表」とは数百円程度の誤差があります。)
給与所得の源泉徴収税額表「日額表」
給与所得の源泉徴収税額表「日額表」には、甲欄と乙欄と丙欄があります。
日額表は、基本的に毎日支払う場合、もしくは日雇い賃金の場合に使用する税額表です。ただし給与の支払いが1週間ごとの場合や、月の給与を日割りで支払う場合にも使用します。
賃金日額は、労働した日以外の日に支払われた場合も日ごとに算定していれば、該当します。ただし、1カ所の勤務先から継続して2 ヵ月を超えて給与などがd支払われた場合には、その2 ヵ月を超える部分の期間について支払われるものは含まれません。
(ペイブックでは、日額表に対応していません。)
賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表
賞与に対する源泉徴収税額算出表には、甲欄と乙欄があります。
賞与を支払う場合、基本的に賞与に対する源泉徴収額の算出表を使用して所得税の控除額を算出しますが、例外として、以下の場合には、給与所得の源泉徴収税額表「月額表」を使用しますので注意してください。
<賞与で月額表を使用する条件>
- 賞与を支払った月の前月に給料を支払っていない。
- 賞与の金額が、賞与を支払った月の前月の給料の10倍を超える。
甲欄、乙欄、丙欄の違い
源泉徴収の金額は、源泉徴収金額表の甲欄、乙欄、丙欄のいずれを使用するかで大きく違ってきますので、くれぐれも間違えないように気をつけましょう。
例えば、源泉徴収金額表「月額表」では、給与から社会保険等の控除金額を引いた課税対象額が、88,000円未満の場合、甲欄を使用すると所得税の控除額は0円ですが、乙欄を使用すると約3パーセントを所得税として、控除しなければなりません。
では、本題の甲欄、乙欄、丙欄の違いを説明します。
“甲欄”は従業員が「扶養控除等申告書」を提出している場合に使用
甲欄は、従業員が事業所に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合に使用します。
税法上、国内において給与の支給を受ける居住者は、源泉控除対象配偶者や扶養親族の有無にかかわらず、原則として扶養控除等の申告を行わなければならないことになっています。
この申告を行わない場合は、月々(日々)の源泉徴収の際に受けることのできる諸控除が受けられず、また後述する年末調整も行われません。
パートやアルバイトの場合で所得税の支払義務のない年収103万円以下の場合でも、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出させ、甲欄を使用することになります。
もし2か所以上の事業所をかけもちしている場合はどちらか一方にしか提出することができないため、申告書を提出していないもう一方の企業では、甲欄を使用せず、乙欄を使用しなければなりません。
甲欄は、給与所得の源泉徴収税額表「月額表」、給与所得の源泉徴収税額表「日額表」、賞与に対する源泉所得税額の算出率の表の全ての税額表にあります。
“乙欄”は「扶養控除等申告書」を提出していない場合に使用
乙欄は、「給与所得者の扶養控除等申告書」が提出されていない場合に使用します。
法的には、扶養控除等申告書の勤務先への提出期限は、その年の初めての給与支給日の前日ですが、会社が従業員に扶養控除等申告書を配布するのを失念したり、従業員が配布された扶養控除等申告書を勤務先に提出するのを忘れてしまったりすると、本来、甲欄であるものが税率の高い乙欄で扱うことになります。
扶養家族がいても、従業員など2か所以上の企業から給与の支払いを受けている場合には、申告書を提出できるのは1か所のみであるため、「給与所得者の扶養控除等申告書」が提出されていない事業所では、税率の高い乙欄を使用します。
兼業の場合は、この点に十分注意することが必要となります。
乙欄は、給与所得の源泉徴収税額表「月額表」、給与所得の源泉徴収税額表「日額表」、賞与に対する源泉所得税額の算出率の表の、全ての税額表にあります。
“丙欄”は日雇いの人や短期間雇用の場合に使用
丙欄は、日雇いの人や、短期雇用のパートやアルバイトに使用する税額です。
日雇いや短期雇用の場合、扶養家族の有無にかかわらず、丙欄を使用します。短期雇用とは、雇用期間が2カ月以内の場合を指します。
丙欄は、給与所得の源泉徴収税額表「日額表」にのみあります。
税区分を考える際の注意点
甲・乙・丙欄のいずれを適用するかについては、前述の通り、一度従業員の雇用形態を把握してしまえば、処理に悩むことは少ないでしょう。
しかし、アルバイト→正社員、もしくは正社員→アルバイトへと働き方が変わった従業員がいた場合、税区分の変化に注意が必要です。
具体的には、乙欄から甲欄への適用、または甲欄から乙欄への適用となり、確認すべき金額・用意する源泉徴収票の枚数が変わってきます。以下に、それぞれのケースについて考えてみましょう。
乙欄から甲欄に変更となるケース
もともと乙欄が適用されていたということは、新しく勤める職場では扶養控除の申請をするが、過去の職場(他社)ではアルバイト等として乙欄のまま税金を納めていたものと推察されます。
その場合、自社では【乙欄+甲欄】という形でそれぞれの給与を合算し、年末調整→源泉徴収票の発行という流れになります。
このとき、源泉徴収票の摘要欄には、以下の情報を記載します。
- 他社が支払った給与の総額、源泉徴収税額、給与から徴収した社会保険料の金額
- 他社の所在地、名称
- 他社が「主たる給与の支払者」でなくなった年月日
甲欄から乙欄に変更となるケース
税区分を甲欄から乙欄に変更するということは、その従業員がメインで働く会社が別の会社になったものと想定されます。
そのため、従業員には甲欄・乙欄それぞれの源泉徴収票を発行し、以下の内容を記載します。
- 支払金額・源泉徴収税額
- 社会保険料の金額
- 主たる給与等の支払者でなくなった旨及びその年月日(摘要欄に記載)
丙欄から甲欄に変更となるケース
自社によるスポット雇用が2ヶ月を超えて継続している場合や、意欲を認められ正社員となった場合、丙欄から甲欄へと税区分が変更となります。
このような場合、丙欄で計算した源泉徴収額は、年末調整に含む形で計算されます。
源泉徴収税額表の甲欄、乙欄、丙欄の違いのまとめ
源泉徴収税額表の甲欄は申告書あり、乙欄は申告書なし、丙欄は日雇いなど雇用期間が2カ月以内限定の短期雇用の場合に使用します。どの欄を使用するかによって、所得税の控除金額が大きく変わってきます。
使う区分を間違ってしまった場合には、追加納付が求められるなどのトラブルが起きることもありますので、リスクを防ぐためにも、甲欄や乙欄の区分を理解して源泉徴収票を正しく作成しましょう。