アルバイト・パートの源泉徴収・年末調整、社会保険加入義務のまとめ
アルバイト・パートは正社員同じく源泉徴収が必要であり、各種保険についても加入義務がある場合があります。アルバイト・パートの場合は正社員とは異なり、すべての項目が源泉徴収対象とならないことがあり、ひとりひとりの勤務の実態に応じて計算をするため正社員の給与計算よりも注意が必要です。
この記事ではアルバイト・パートの源泉徴収と給与明細の仕組み、読み方、作り方についてお伝えします。基本的には雇用する側(事業主)向けに記載していますが、雇用される側(アルバイト・パート従業員)も知っておいたほうが良い内容です。
給与明細の読み方・控除項目の説明
給与明細には所得税や雇用保険などの控除項目が表示されますが、これらの項目は勤務実態に応じて「控除されるもの」と「控除されないもの」があります。 なお、ここで言う「控除」とは、給料の中から会社が預かり、後日税務署など法律で定められた機関に支払うということを指します。この仕組みを、給料が支払われる源泉の時点で徴収するということから、「源泉徴収」と呼びます。
以下に代表的な控除項目と、対象となる要件を記載します。
所得税 | 決められた表(源泉徴収税額表)に基づいて毎月の給与をもとに所得税額が決定されます。所得税がゼロとなる年間の給与が103万円以下になると予想される場合でも、毎月の給与額が対象金額を超えた場合は源泉徴収することとなります。 は年末調整で還付を受けることとなります。 年の途中で退職した場合や、雇用主が年末調整を行わない場合は確定申告を行って還付を受ける必要があります。 |
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住民税 | 「前年の所得」に基づいて「市区町村ごとの税率」で決定されます。給与所得が発生している場合は、事業主による給与からの徴収(特別徴収といいます)、及び納税が必要となっています。 |
健康保険・厚生年金 | アルバイトは健康保険や公的年金の対象外と考えている方もいらっしゃいますが、アルバイトでも健康保険の対象となることがあります。その条件とは、以下の①②または③に該当する場合です。 ①所定労働時間が「週30時間以上」である方 ②所定労働時間が「週20時間以上」であり、 ・月額賃金が8万8千円以上 ・1年以上の勤務を見込み ・学生ではない(※後述) ・従業員501名以上の企業である という条件を全て満たす場合 ③所定労働時間が「週20時間以上」であり、 ・月額賃金が8万8千円以上 ・1年以上の勤務を見込み ・学生ではない(※後述) ・従業員500人以下であり、労使合意に基づき適用対象としている、もしくは国・地方公共団体の場合 という条件を全て満たす場合 上記の条件を満たしたアルバイト・パートは社会保険の加入対象となり、雇用主には健康保険及び厚生年金を加入させる義務があります。そのため、保険料を給与から控除する必要があります。 |
介護保険 | 40歳以上の全員が負担する必要があり、こちらも加入している健康保険組合と標準報酬月額により金額が決定されます。 |
労災保険 | 雇用形態に関わらず全員加入することが義務付けられています。なお、保険料は全額雇用主負担のため、給与明細には項目として出てきません。 |
雇用保険 | 以下の2つの条件の両方に該当した場合は加入義務があります。ただし、学生(※後述)の場合は対象外です。 ①所定労働時間が「週20時間以上」である ②31日以上雇用の見込みがあること |
その他控除項目 | 財形貯蓄や従業員持株会、組合費などその他の控除項目があれば記載します。アルバイトが対象となるかどうかは会社ごとに就業規則などで定めることとなります。 |
(囲み枠)対象外となる「学生」の要件とは?
社会保険(健康保険、厚生年金)や雇用保険は全て「学生は対象外」となっています。この「学生」は昼間学生を指しており、以下の学生は全て対象となります。
- 通信教育を受けている者
- 大学の夜間学部
- 高等学校の夜間又は定時制課程
- また、昼間学生の場合も、以下の場合は対象となります。
- 卒業見込証明書を有するものであって、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一事業所に勤務する予定の者
- 休学中の方(その事実を証明する文書が必要)
- 事業主の命により又は、事業主の承認を受け(雇用関係を存続したまま)大学院等に在学する者
- 一定の出席日数を課程修了の要件としない学校に在学する者であって、当該事業において、同種の業務に従事する他の労働者と同様に勤務し得ると認められる方(その事実を証明する文書が必要)
一般的な「学生アルバイト」であれば基本的には対象外となりますが、夜間学生や通信学生、就職前の雇用や休学中の場合は対象となるので注意が必要です。
参考:厚生労働省 雇用保険事務手続きの手引き
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000131698.html)
内、「第4章 被保険者について」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000655524.pdf)29ページ
アルバイト・パートの年末調整について
アルバイト・パート社員の場合は毎月の給与支給額に変動があることが多く、正社員以上に年末調整が重要となります。
そもそも年末調整とは、毎月「概算」で徴収、納付した税額を一年分の支給総額から改めて計算し、過不足分を精算するという手続きです。逆に言えば、この手続をしない場合は税金を収めすぎの状態になっていたとしても、お金が戻ってこないことになります。
例えば、給与が年間103万円以下の従業員の場合は基礎控除と給与所得控除が適用されることで所得税はゼロとなります。しかし、1月の給与が8万8千円を超える月があった場合は、その月に所得税が源泉徴収されています。年末調整の手続きで、その過払い分の所得税について還付を受けることとなります。
なお、年末調整は「12月31日時点」で「主たる給与の受取先」として在籍する従業員に対して行うこととなり、年の途中で退職した場合は年末調整の対象とはなりませんし、複数の会社から給料をもらっている場合はメインの会社の分しか行われません。この場合の「メインの会社」とは「給与所得者の扶養控除等申告書」という書類を提出している会社です。
この書類は一つの勤務先のみ提出するものであり、提出の有無により源泉徴収所得税の税額表が「乙欄」適用か「丙欄」適用かが変わってきます。あくまでも書類を提出した先が主たる給与であり、金額が大きいところや勤務時間が長いところというわけではないため注意が必要です。
もしあなたが年の途中で退職した場合や、複数の場所から給料をもらっている場合は、退職時に交付される「源泉徴収票」をもとに、ご自身で確定申告を行って還付を受ける必要があります。なお、確定申告は時期(毎年2月~3月)になると税務署で無料相談会が開催されますので、そこに源泉徴収票をすべて持っていけばその場で申告書類を作成し、申告することができます。税務署は、正しく納税する方には優しいところです。(もちろん、脱税には、厳しいですよ!)
アルバイト・パートの源泉徴収票について¥
アルバイトであるからといって、源泉徴収票を発行しなくても良い、ということはありません。国税庁のウェブサイトにも
“「給与所得の源泉徴収票」は、給与等を支払った全ての方について作成し交付することとされています“
と記載があります。もしアルバイトに対して発行していない会社があれば、発行するようにしてください。
そもそも源泉徴収票は、一年間に払った給与と控除した金額をわかりやすく明示するものであり、源泉徴収を適切に行っていればその金額を項目ごとに合計するだけです。給与計算ソフトなどを使用しなくても、国税庁のウェブサイトからPDFのテンプレートをダウンロードし、印刷して手書きで記入することで作成可能です。
参考:国税庁 | [手続名]給与所得の源泉徴収票(同合計表)
( https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100051.htm )
計算自体が難しいわけではありませんが、従業員数が多くなるとその分だけ事務処理負担は増えますので、給与計算ソフトなどの導入を検討するのも良いでしょう。
アルバイト・パートの源泉徴収・年末調整、社会保険加入義務のまとめ
アルバイト従業員でも社会保険などの加入義務があり、正社員同様の手続きが必要ということを説明させていただきました。むしろ、支給給与額に変動があったり、加入対象者の条件確認の必要があったりと、正社員よりも注意が必要というのが実態です。
アルバイト従業員が多いと計算も大変になってくると思います。その計算や労力をさけるあまりに、「アルバイトだから簡単な手続きで良い」「アルバイトは社会保険や源泉徴収は不要」と考えているのであれば、その状態は法令違反なのですぐに改善するようにしましょう。本業にかける時間をできるだけ削らないという視点に加えて、それでいて法令を遵守して雇用を行うというのが事業主に必要な視点なのではないでしょうか。
最近は無料で使える給与計算ソフトもありますので活用を検討してみるのも良いと思います。