給与計算ラボ

業種別の給与計算の注意点

農園、農業関係の仕事の給与計算 - 法人経営への移行に伴う労務管理の重要性

農園・農業関係の給与計算と心掛けたいこととしては、まず、小規模な個人経営の農園などでは、従業員を労働保険や社会保険に加入させる必要がないため、給与計算が非常に簡単である点が挙げられます。常時5人未満の労働者を使用する個人経営の事業所の場合、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険のいずれも現在のところは適用除外となります。

給与計算の仕事の主要なものは、大半は時給制であると思いますが、適切に時給を設定すること、労働時間をしっかり把握し、労働時間が1日8時間・1週間40時間を超える場合には、残業手当を支払うこと、賃金の未払いがないように、十分な資金を確保しておくことなどがあげられます。

地方の農村の個人事業の農家が人を雇う場合には、大半が顔見知りであることが多く、使用者と労働者の対立や、労働者間の対立など、摩擦が生じる事は少なく、その意味では、労務管理も楽というか、労務管理自体必要ないと言っても過言ではありません。働く側も、農繁期の臨時的な雇用が多いため、副業的な感覚で働く方が多く、深刻な雇用をめぐるトラブルが起きにくい特徴があります。

しかし、最近、農業を巡る環境も変化してきております。輸入自由化により外国産安い農産物が国内に大量に入ってくるようになった現在、個人経営の農業は衰退の一方です。特に、十分な収入が得られないために、後継者不足が深刻です。そこで、農業の経営主体が個人から法人へというシフトが始まっております。

農業で十分な収入を上げるためには、その農家が居住する近隣地域を市場としていたのでは不十分であり、やはり、全国、そして、海外を市場としなくてはなりません。日本産の良質の農産物は海外で高い評価を得ており、高値で取引されます。こういった広い市場で農産物を販売するためには、個人事業所では不可能で、多くの資金と人材を集積できる共同組合方式か農業生産法人などの組織化・法人化がどうしても必要です。そして、そのような状況の下、農業生産法人などは増加する傾向にあります。

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農業の法人経営と労務管理

さて、このような農業生産法人が労働者を雇用する場合には、個人経営の小規模な農家とはガラッと変わります。法人が1人でも労働者を雇えば、農業だとか建設業だとかという業種に関わらず、短時間雇用者や短期間雇用者などの適用除外者を除いて、全ての労働保険・社会保険の適用の対象となります。

すなわち、法人(使用者)は、その雇用する労働者を、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険のすべてに加入させなくてはなりません。そうすると、給与計算は急に複雑になります。また、週休2日で1日の所定労働時間が8時間の期間の定めのない雇用契約により採用される職員は、通常は年間の給与額が103万を超えますから、所得税の源泉徴収の手続きが発生します。

また、農業では、農繁期と農閑期がかならずあります。農繁期には、通常は、短期間従業員や短時間従業員を雇用し、対応するのが普通です。そうすると、常用雇用の正職員と、短期間・短時間雇用の職員の二つの身分が発生し、それに伴い、給与計算も2つのラインを設けなくてはなりません。同時に、複数の身分がある場合、トラブルが起きやすくなり、労務管理が必要になってきます。

次ぎに、短期間従業員や短時間従業員を雇用する場合、社会保険の加入の問題が発生します。すなわち、雇用期間や所定労働時間を調整して社会保険の適用除外に該当するようにし、社会保険に加入させないようにするか、それとも、それでは業務の運営上支障があるので、社会保険に加入させるという条件で、業務の運営上支障がない程度の十分な雇用期間と所定労働時間を設定するかという問題です。社会保険料の負担は、結構重いですから、この問題は頭を悩ませるところです。

さらに、主婦の方をパート労働者として雇う場合には、所得が103万を超えれば、所得税がかかるようになり、また、130万円を超えれば、健康保険では配偶者の被扶養者からはずれ、また、国民年金では第3号被保険者からはずれて、自ら、健康保険料や国民年金保険料を負担しなければならなくなるため、この103万円や130万円の壁を超えないように労働時間数や時給額を調整しなければならない場合もあります。

加えて、雇用保険に関しても、基本手当が受給できるのは、離職の日以前2年間のうちに1月当たり賃金の支払の基礎となった日が11日以上あった月が12か月以上ある場合ですから、短期間雇用者を雇用する場合には、退職後に雇用保険から基本手当を受給できるように雇用期間を適当に調整してやることが必要な場合もあります。このように、パートさんなど短期間・短時間雇用者を雇った場合には、ほんとうにいろいろ気を使わなければならないことが次から次へとでてきます。

これまで述べてきたように、農園・農業関係の給与計算については、小規模の個人経営の場合と農業法人の場合では、大きく異なり、後者の方が格段に複雑になるという特徴があります。しかし、建設業や運輸業などに比べて、事故が少なく、労災関係の手続きが非常に少ないなどのメリットもあります。パート雇用が難しいのは農業だけに限った事ではありませんから、全体としては、丁寧な対応を心掛ければ特に大きな問題はないと考えられます。

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