起業する前に絶対覚えておきたい取締役の税金と社会保険
役員報酬は一般従業員の報酬と別物
会社を起こしたとき、最初につまずきやすいのが、役員報酬の扱いについてです。
税務上、取締役をはじめとする役員は、一般従業員とは完全に別扱いとされています。これは、役員の場合、個人の利益と企業の利益とを厳密に区別することが難しいためです。
もし取締役の報酬を一般従業員の報酬と同列に扱ってしまったとすると、報酬額を多くすることで簡単に法人税逃れができてしまいます。それを未然に防ぐべく、役員報酬には経費等の面でさまざまな制限がかけられているわけです。
肝心の税金についてですが、税率の面では、取締役も一般従業員と同様の基準で所得税がかかります。ただし、利益を区別できないからこそ、個人資産と会社の資産とをどのようなバランスで配分するかによって税額は大きく変わってきます。
目的に合わせて賢く報酬額を設定しないと、税金で痛い目を見ることになってしまいます。
ケースによって大きく異なる納税額
取締役の報酬にかかる税額は、
- (a) 個人資産ができるだけ多くなる配分
- (b) 会社の資産ができるだけ多くなる配分
- (c) バランスをとって現金が最も多く残るよう配分
の順番で安くなっていきます。
仮に年間の純利益が800万円だとした場合、(a)と(c)のケースでは納税額に80万円もの差が生じます(※(a)=184万、(b)=124万、(c)=103万5250円)。
もちろん、より規模の大きな会社であれば、なおさら差額は大きくなることになります。これだけの金額差を黙って見逃しては経営者として失格です。上手に報酬額のバランスを考慮しなければなりません。
経営のステージによって判断を
どの配分を選択するのがベストかは、会社が現時点でどのような経営状態にあるかによって左右されてきます。
会社の経営評価を高めるためには(b)です。
金融機関からの融資を念頭に置いている場合は、会社の資産を多く設定するに越したことはありません。
一方、経営が安定状態にある場合は、キャッシュフローの豊富さを重視して、現金の多く残る(c)を選ぶべきです。
反対に、原則的に選ぶべきではないのが(a)のパターンです。
ただでさえ納税額が多い上に、社会保険料の負担まで極端に増えることにも繋がり、まったく経済的ではありません。
例外は、個人名義で大きな買い物(住宅や土地、車など)をしたいときだけです。個人所得を多くしておけばローン審査の際に有利になるからです。
役員報酬額は1年間変更できない
報酬額の設定を慎重にすべき理由は、これだけではありません。
役員報酬を変更することができるのは、期首からのたった3か月間だけなのです。そして、一度決めてしまうと、以後1年間は再変更ができません。
これの何が問題かというと、事業計画が狂った場合、想定からかけ離れた法人税額を請求されることになりかねないという点です。
大前提として、会社は利益を追求する組織ですから、売上が1円でも上がることを目指して経済活動をしています。しかしながら、想定から大幅に売上が伸びすぎた場合は、納税額も想定外に膨れあがることに繋がります。すると皮肉にも、利益が多いがために経営が圧迫されるという事態にさえなりかねません。
運転資金が少ないと、最悪の場合、黒字破産に陥るリスクさえあります。
取締役の報酬決定は、経営そのものの根幹さえも左右しかねないということを、決して忘れないようにしたいものです。
社会保険料は安く抑える
もうひとつ、報酬の決定に際して大きな影響をもたらす要素が社会保険料です。すでに少し触れたように、社会保険料は、月収額の上昇に対する跳ね上がり方がきわめて大きくなります。
多額の保険料を納付すればそれだけ厚遇されるというのであれば、気にせずたくさん納めれば済むだけの話ですが、現実には保険内容は納付額の差ほどには変わりません。
経営者の視点からすれば、社会保険料はできるだけ削減すべき経費なのだといえます。
そこで真っ先にコストカットすべきが、取締役をはじめとする役員の社会保険料です。
従業員の社会保険料は労働条件に深く関わってきますから、同意なしに経営者の一存で変更することはできません。一方、役員の場合は一般従業員と厳密に区別されていますから、取締役会の決定をもって即座に断行することができます。
また、社会保険料は会社と被保険者との折半で納付されているわけですが、取締役の場合は財布が違うだけで、実質的には全額負担と変わりません。将来の年金での回収率はますます悪く、多
額の保険料を納めるメリットがないのです。
非常勤取締役という形態を活用する
もうひとつ、効果覿面のコストカット法があります。それは、常勤取締役を非常勤取締役へ変更することです。というのも、非常勤の取締役は社会保険に加入することができないためです。
非常勤取締役にするためには勤務実態に制限がありますが、家族経営で社長夫人を取締役としているような場合には有効なことが多いです。