起業する前に知っておきたい控除項目の種類と給与計算の方法
法定控除と協定控除
控除項目は法定控除と協定控除とに分けることができます。
法定控除に該当する項目としては、所得税、住民税、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が挙げられます。
法定控除というのは文字どおり法に定められているものですから、これらの部分については給与から天引きすることが許可されています。もちろん法による判断ですので、日本全国どこの事業所であっても共通の項目です。
反対にいえば、上記以外の名目では、会社側が勝手に給与から天引きすることは許されないということです。
そこで、もう一方の協定控除が出てきます。こちらは、事業主と労働組合(または過半数の代表)との間で交わされた労使協定に基づいて認められた控除項目のことです。
労使協定は労働基準監督署などの外部機関に届ける必要はありませんから、会社ごとによって協定控除項目の内訳は当然変わってきます。ここに該当する代表的なものとしては、寮費、社宅費や旅行積立金、社内預金、労働組合費などを挙げることができます。
控除項目と給与計算
それぞれの控除項目について詳しく解説していきましょう。
【税金】
所得税
所得の額に応じて5%〜40%の範囲で国に納付する税金です。正確な税額は年度末になるまで確定しませんが、給与所得者の場合は毎月の給与からあらかじめ概算額を計算することができます。
その概算額に基づいて給与から天引きする仕組みが、源泉徴収制度です。正式な所得税額との誤差は、年末調整によって解消されます。
住民税
居住地のある市区町村に納付する税金です。1月1日現在の住民基本台帳に基づいて、年間の給与総額から算出されます。企業には、従業員の住民税を徴収する義務があるので、給与からあらかじめ天引きする必要があります。
なお住民税の税額はそれぞれの地方自治体によって異なりますので、期間中の転居などがあった場合には注意が必要です。
【社会保険料】
健康保険料
病気・けがなどで医療機関にかかった際に、国民の医療費負担を軽減する仕組みが健康保険制度です。組合健康保険、協会けんぽ、国民健康保険の3種類がありますが、会社員の場合には組合健康保険へ加入することが一般的です。標準報酬月額に保険料率を掛けることで計算され、その際の保険料率はそれぞれの健康保険組合によって定められます。
保険料は会社と従業員の双方で一定率を負担しますが、このうちの従業員負担分が給与から天引きされることになります。
介護保険料
介護保険は、寝たきりや認知症になって自力での生活に支障が出てきた場合に、国から介護サービスを受けることができる制度で。2000年に制定された保険制度で、40歳から80歳までの国民に納付が義務づけられた保険料です。
なお、65歳以上の人にも納付が義務付けられますが、年金から天引きされるか自分で納付するため、通常、給与から天引きされるのは64歳までです。
こちらも標準報酬月額に保険料率を掛けることで算出されます。保険料は会社と従業員での折半となり、給与明細においては、従業員負担分が天引きされることになります。
厚生年金保険料
一般的に会社員が加入する年金保険制度で、定年退職後や障害を負った場合などに年金を受給することができる保険です。死亡した場合には、家族が受給を受けることもできます。
日常的にはあまり区別されませんが、厳密には、厚生年金は国民年金に上乗せして支払う部分のことを指すもので、「厚生年金保険料」といった場合には基礎部分と上乗せ部分を合計した金額になります。これを一括して支払っているわけです。
厚生年金保険料も標準報酬月額に保険料率を掛けて算出され、会社と従業員での折半となります。このうちの従業員負担分が給与から天引きされています。
また、厚生年金基金といういわゆる3階建部分の積立てがあり、企業によって負担内容はさまざまですが、従業員には負担させない企業が多いようです。
雇用保険料
失業した際、次の職に就くまでの生活資金を国から給付してもらえるのが雇用保険制度です。31日以上の雇用見込みがあり、1週間あたりの所定労働時間が20時間以上、かつ、64歳以前に就職したすべての労働者が対象となっており、雇用する事業者に加入が義務づけられています。
保険料負担額は年度ごとに頻繁に変更されますが、事業主と従業員双方が一定割合を負担することになります。このうち、従業員分の負担が控除対象となります。
なお、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は課税対象となりません。これらの合計額が、給与明細においては「社会保険料合計額」として明示されています。
【協定控除】
- ・寮費
- ・社宅費
- ・福利厚生施設費
- ・社内預金
- ・旅行積立金
- ・労働組合費
これらの協定控除項目は事業主と従業員との間で取り決められた労使協定に基づくものですので、項目数や具体的な金額については各事業所ごとに異なります。
ただし、協定控除として認められる項目は、根拠と金額が明確である必要があります。
総支給額からこれらの控除項目を差し引くことで、差引支給額(=いわゆる手取り額)が算出されることになります。