給与明細と支給額が違う。そんな時どうすればよいの?
一律の金額を給与として支払うのであれば、間違いは起りにくいですが、多くの従業員にそれぞれ異なる金額を給与として支給しなければなりませんので、どうしても給与明細の支給額と実際に支給する金額を間違ってしまうという事態が発生してしまいます。
給与の間違いはお金の問題ですので、対応を誤れば、大きなトラブルに発展しかねません。
今回は、給与明細と実際の支給額が違ってしまった場合の対処方法についてです。
本当に給与明細と実際の支給額が違うのか?
従業員から給与明細と実際の支給額が違っていると問い合わせを受けた場合、まず本当に給与明細と実際の支給額が違っているのか確認しましょう。
■勤怠
労働日数、労働時間、残業時間、深夜時間、休日労働時間、遅刻早退時間について、再度誤りがないか確認を行いましょう。
■残業手当
残業手当は以下の計算式で算出します。
- 残業手当 = 1時間の単価 × 割増率 × 残業時間
- 1時間の単価 =(月額給料-手当※①)÷ 1ヶ月あたりの平均所定労働時間※②
※①家族手当や通勤手当など、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支払われるものが対象
※②1ヶ月あたりの平均所定労働時間 = 年間労働日数 × 所定労働時間 ÷ 12
割増率は深夜勤務や休日労働など、残業の種類や時間帯により異なるため、注意が必要です。
■勤怠控除
各勤怠控除の算出方法は以下のとおりです。
①欠勤の場合
- 給与明細と実際の支給額が違う場合の対応 ※月平均の所定労働時間数 =(365 - 年間休日数)÷ 12
- 月給与額 ÷ 該当月の所定労働日数 × 欠勤日数
②遅刻・早退の場合
- 遅刻・早退控除の対象とする月の給与額 ÷ 月平均所定労働時間数 × 遅刻・早退の時間
■手当
総支給額から控除されるものとして、以下が挙げられます。
- 社会保険料(健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険)
- 所得税
- 住民税
- 会社独自の控除
社会保険料や税金は法定控除といい、法律で定められている控除項目のため、必ず給与から差し引く必要があります。
従業員の中には、総支給額と控除の関係を理解していない人も多いため、場合によっては下記計算方法についても説明する必要があります。
①健康保険
大きな怪我や病気に見舞われた際に適用される保険制度が健康保険です。
健康保険料の負担額は以下の計算式で求めることができます。
- 標準報酬月額×健康保険料率÷ 2
②厚生年金保険
労働者の老齢や死亡、障害について保険給付を行う制度です。
<厚生年金保険料の負担額>- 標準報酬月額 × 18.300% ÷ 2
③介護保険
労働者の怪我や病気、加齢などによる介護サービスについて保険給付を行う制度です。
<介護保険料の負担額>- 標準報酬月額 × 介護保険料率 ÷ 2
④雇用保険
労働者の失業や雇用が継続困難となった場合に適用される保険制度です。
事業主と労働者、事業の種類、また年によって変動するため、厚生労働省の雇用保険料率に従います。
⑤所得税
その年の1月1日から12月31日の間に得た所得に対して課税される国税です。
毎月の所得税はあくまで概算のため、12月の年末調整または確定申告で、確定した年収を基に所得税を計算しなおし、差額が還付または追徴されます。
⑥住民税
従業員が住民票のある市町村や、都道府県に納める税金です。
住民税は前年の所得に応じて、税額が決定し、翌年の6月から支払いが始まります。
⑦会社独自の控除
会社独自の控除項目がある場合は、会社と従業員間の労使協定によって書面上で合意した場合のみ、控除ができます。
例)社宅費、組合費、従業員持株会など…
給与明細と実際の支給額が違う場合の対応
前述の項目を再確認した上で、給与明細の支給額と実際の額が間違っていた場合は、可及的速やかに差額を清算しましょう。
給与明細の支給額と実際に支払った金額が違うということは、かなりデリケートな問題であり、従業員が企業に対して不信感を抱きやすいため、ここで対処を誤ると大きなトラブルになりかねません。素早い誠実な対応が必要です。
給与明細より多く振り込んでしまった場合
給与を給与明細の支給額より多く従業員の口座に振り込んでしまった場合、まず振り込んでしまった金額から給与明細の支給額を引き、多く振り込んでしまった金額を算出します。
その上で、給与を多く振り込んでしまった従業員に、多く振り込んでしまった金額を通知します。そして、できれば従業員と相談し、現金で回収するか、翌月の給与で清算するかを決めてください。
労働者から現金で回収する
当月の給与の過払い金を労働者から現金で回収する場合、過払いが直近のことなのであまりトラブルにはなりません。
しかし、給与の過払いが6カ月前のことであったり、1年前のことであったりする場合、従業員側からすると、すでに使ってしまったお金を取られることになり、心理的にも経済的にも抵抗感が発生するため、トラブルになりがちです。
従業員にいつの時点でいくらの過払いがあり、いつまでに返却してほしいかを十分に説明した上で、過払い金を回収してください。必要なら、分割払いなどの支払方法も検討しましょう。
翌月の給与で清算する
当月の給与を過払いしてしまった場合、翌月の給与の調整金というかたちで清算することができます。
労働基準法の「賃金支払いの5原則」の「全額払いの原則」がありますが、昭和23年9月14日の行政通達で、「前月分の過払い賃金を翌月分で精算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、法第24条の違反とは認められない」とされていますので、翌月の給与で清算することが可能なのです。
しかし、翌々月以降に関しては、触れられていませんので、清算が翌月以降になってしまう場合は、給与とは別に給与を過払いしてしまった労働者に請求し、過払い金を回収しなければなりません。
翌月の給与で清算する場合、あらかじめ給与を過払いしてしまった労働者に、翌月の給与で、いくら差し引くかを通達しておきましょう。
このとき、調整金を所得税の計算に入れないように注意してください。
給与明細より少なく振り込んでしまった場合
給与を給与明細より少なく振り込んでしまった場合、まず給与明細の支払額から、実際に振り込んだ金額を引き、追加で支払わなくてはならない金額を算出します。それから速やかに給与を少なく振り込んでしまった従業員に、足りなかった金額を通知し、すぐに現金で清算するか、翌月の給与で清算するかを相談してください。
労働者に現金で支給する
現金で清算する場合、足りなかった金額を従業員に手渡すときに、忘れずに領収書、もしくは規定のフォーマットに領収印をもらっておきましょう。
間違いなく支払ったという証拠を残すことで、後々のトラブルを避けることができます。
翌月の給与で清算する
翌月の給与で清算する場合、足りなかった金額を調整金として、給与明細に計上します。
この場合、この調整金に対する所得税は、すでに徴収済みであるため、所得税の計算に入れないように注意してください。ここで所得税計算に入れてしまうと、所得性の2重取りになってしまいます。
給与明細と支給額が違う場合のまとめ
給与明細の支給額と実際の支給額が違ってしまった場合、可及的速やかに清算しましょう。1カ月以内であれば、現金による清算も、給与での清算も可能です。翌月の給与で清算するときは、所得税の計算に清算金額を組み込まないよう注意してください。
給与明細と実際の受取金額が違うということは、トラブルに発展しやすいデリケートな問題ですので、くれぐれも慎重に対応しましょう。