要注意!本当に注意すべき実際にあった給与計算のトラブル
給与計算は、従業員の報酬を確定するための大切なプロセスです。
従業員ごとの給与に関する詳細内容は極秘事項のため、本来なら経営者自らが行うと安心な業務です。ところが、従業員の数が多い場合や、なかなか業務のための時間が取れない経営者にとっては、毎月のように給与計算業務を行うことは困難でしょう。いっぽう、給与計算業務を社長以外の者が行う場合、経営者の「作業の負担」と「精神的な負担」は軽減されますが、同時にさまざまなリスクが発生します。
今回は、実際にあった体験談を交えながら、給与計算にまつわるトラブルの解決方法について説明していきます。
とあるIT機器メーカーでの話
その会社には40名ほどの正社員が在籍し、給与計算はすべて経理部門が行っていました。
雇うのは基本的に正社員のみで、年俸制をとっていたため毎月の給料は同額で、通勤費も6ヶ月分の定期を支給し、按分で天引きをしていました。
そのため、月々に行う業務の流れさえ覚えてしまえば特別な処理の必要はなく、給与計算の担当者は最小限である1名で、担当者が行った計算内容を経理部長がチェックする、という体制を取っていました。
年に一度の繁忙期
ところが、毎年年末に行われる年末調整の時期には経理部は繁忙を極めます。
年末調整とは、従業員が毎月の給与や賞与の支払いのときに源泉徴収された所得税額と、その年の1年間(1月から12月まで)に支払いを受けた給与や賞与の総額について実際に納めなければいけない税額とを比べ、従業員ごとにその過不足額を精算する手続きのことをいいます。
経営者には、毎年それぞれの従業員が居住する市町村に対して、その従業員の年末調整の結果を報告する義務があるため、年末調整はとても大切な業務です。
年末調整の業務は、ほとんどの会社では年末までに行わなければなりません。この会社も例外ではなく、経理担当者は一人で全従業員から書類を回収し、給与ソフトにデータを入力、チェックのうえ提出書類を準備しなければならず、毎年年末は多忙を極め、残業続きの毎日でした。
そこで経理部長は、年末調整業務に備え人材募集を行い、担当者の補助をする短期期間のパート社員を雇うことにしました。
即戦力を希望していたため、会計事務所での勤務経験者限定で募集をかけたところ、税理士試験の受験経験があり、会計事務所での勤務歴が20年というベテラン女性が応募をしてきたため、秋口から週に3日の契約で雇うことに決まりました。
彼女は人柄も申し分なく仕事も熱心に取り組んだため、経理担当者は今年の冬は楽になりそうだと安心しました。
重大なミス
12月になり、年末調整の業務が開始されました。経理担当者は以前から行ってきたパート社員との打ち合わせ通りに従業員から書類を回収し、短時間で入力を終えることができました。入力書類のチェックを隣の席のパート社員に頼み、安心して別の業務にかかりました。
翌日、経理担当者が出社したところ、パート社員のチェック済み書類が机に置いてありました。「よろしくお願いします」という手紙とともに訂正箇所に付箋がついていたため、訂正したうえで経理部長に回し、戻って来た書類をもとに入力を完了させ、無事に年内に年末調整業務を終えることができました。
ところが、12月の給与支払後に、従業員の一人が怪訝な顔をして経理担当者のもとへやって来ました。
「僕の年末調整の徴収額、多すぎる気がするんだけど・・・」
問い合わせをもとに調べたところ、経理担当者は大変なミスに気がつきました。
入力した住宅ローン控除の金額の桁を間違えていたのです。慌てて行程について再確認したところ、数字をチェックしたパート社員はミスに気づいていたものの、チェック済み書類につけた付箋が折れ曲がり見えなくなっており、経理担当者がミスに気がつかなかったということが分かりました。住宅ローン控除の金額は高額のため訂正額もかなりの額になり、経理部は修正に追われました。
打ち合わせ・チェック体制の重要性
今回のケースのように繁忙期に備えた短期雇用を行う場合、さまざまな点に注意しなければなりません。特に年末調整のようなイレギュラーな作業の場合、毎月の給与計算とは異なりシミュレーションが難しいので、事前の打ち合わせが必須となります。
今回は、作業の中で一番重要なデータチェックの最中に起こったトラブルであり、本来なら顔を合わせて問題点がないか話し合う必要がありました。このように毎日出社するわけではないパート社員の場合、連絡事項の伝え方などを事前に取り決めておくべきでしょう。チェックを頼んだ側が付箋以外の部分も熟読する必要があったことに対し、チェックを行った側も書類の一番上に訂正箇所を記載した手紙をつけておくなど、お互いを思いやった対処が必要でした。
「誰かがやってくれている」は間違い
さらに悪いことに、経理担当者の入力情報をチェックするはずの経理部長が「今回はベテランのパート社員が確認してくれたから大丈夫だ」と判断し、チェックを怠ったことも後で判明しました。これは、「誰かがやってくれているはずだから」という驕りからきた行為で、今回のミスは起こるべくして起こったといえます。
どんな人間にもミスはあります。給与計算のような重要書類のチェックは「間違っていて当たり前」という感覚をもって念入りに行うべきでしょう。