最低賃金制度とは?種類や改定基準、違反への罰則について解説!
賃金の支払いにおいては「最低賃金制度」というルールが存在します。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、会社側がその最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければならないとする制度のことです。
従業員を雇う雇用主は、労働の対価として最低賃金額以上の給料を支払わなければなりません。
万一、賃金の金額が最低賃金以下だった場合には差額の支払いを求められたり罰則を科されたりすることもあるので十分注意しましょう。
本記事では労働基準法に基づく最低賃金の仕組みや、地域による最低賃金の調べ方について紹介いたします。
最低賃金制度の概要
最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、会社側がその最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければならないとする制度のことです。
万が一、使用者と労働者の間で最低賃金未満の賃金が合意・設定された場合でも、法的に無効となり、使用者はその差額を支払うことになります。
最低賃金の種類
最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象に定められた「特定最低賃金」の2種類があります。
1.地域別最低賃金
地域別最低賃金は、各都道府県において定められた最低賃金です。
産業や職種・企業規模の違いなどに関係なく、同じ都道府県内の事業場内で働く全労働者・使用者に適用されます。
地域別最低賃金は下記厚生労働省のHPでチェックすることができます。
参考:厚生労働省|最低賃金制度
最低賃金は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成される最低賃金審議会において議論の上、都道府県労働局長が決定しています。
なお、決め方においては以下3つを総合的に勘案して定めるとしています。
- 労働者の生計費
- 労働者の賃金
- 通常の事業の賃金支払能力
労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされています。
2.特定最低賃金
特定最低賃金は、特定の産業について設定されている最低賃金です。
関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。
全国で226件(令和5年3月末日現在)の最低賃金が定められており、この226件のうち、225件は各都道府県内の特定の産業について決定されており、1件は全国単位で決められています(全国非金属鉱業最低賃金)。
特定最低賃金は、特定の産業において地域別最低賃金よりも高い最低賃金を定める必要があると認められた場合に設定されます。特定最低賃金では、産業ごとに対象となる労働者が細かく規定されています。地域別最低賃金と特定最低賃金ともに適用となる場合は、高い金額のほうが適用されます。
具体的な業種と金額については下記HPをご確認ください。
最低賃金適用の対象者
産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。)。
しかし、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
最低賃金の減額特例を受けられる労働者
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
なお、最低賃金の減額の特例許可を受けようとする使用者は、最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)2通を作成し、所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出する必要があります。
最低賃金の対象となる賃金
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
最低賃金の除外対象
- 臨時に支払われる賃金 ※例:結婚手当
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金 ※例:賞与
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金 ※例:時間外割増賃金
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金 ※例:休日割増賃金
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分 ※例:深夜割増賃金
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
最低賃金の確認方法
支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。
①時間給制
時間給≧最低賃金額(時間額)
②日給制
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
※日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合は以下となります。
日給≧最低賃金額(日額)
③月給制
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
⑤上記①②③④の組み合わせの場合
基本給や各手当で、それぞれ日給・月給などいくつかの賃金体系が組み合わさって支払われる場合は、それぞれを時間給として計算し、合計したものを1時間あたりの賃金として最低賃金額と比較します。
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記②③の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
最低賃金の改定について
最低賃金はほぼ毎年改定されます。
都道府県の令和5年度地域別最低賃金改定状況は、以下より確認ができます。
※一部抜粋
2023年10月の改定では37都道府県で最低賃金は39円~47円引き上げられ、全国平均加重平均額は1,004円となりました。
時給43円ベースアップは過去最高で、初めて全国平均加重平均額が1,000円を上まわりました。
最低賃金における企業の義務および罰則
最低賃金法では企業の義務を定め、違反があった場合の罰則を設けています。
最低賃金の周知義務
最低賃金法第8条および最低賃金法施行規則第6条により、使用者は最低賃金について労働者に周知する義務があると定めています。
適用労働者の範囲・適用される最低賃金額・最低賃金として計算しない賃金・効力発生年月日などが該当します。
事業場で労働者の目につく場所に掲示するなどの配慮も必要です。
これに違反した場合は、最低賃金法第41条に基づき、30万円以下の罰金に処せられます。
最低賃金額を支払わない場合の罰則
①地域別最低賃金
最低賃金法第4条第1項において、使用者は最低賃金の適用労働者に地域別最低賃金額以上を支払うことと定められています。
違反した場合には、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金に処せられます。
②特定最低賃金
特定最低賃金において違反した場合、最低賃金法ではなく労働基準法第24条に基づき30万円以下の罰金に処せられます。
労働基準法第24条では、賃金の支払い方法において「通貨で・全額を労働者に・直接・毎月1回以上・一定期日を定めて」支払うことを定めています。
特定最低賃金の違反では、「全額支払」の違反となり罰則の対象となります。
参考:
総務省行政管理局|最低賃金法
総務省行政管理局|最低賃金法施行規則
総務省行政管理局|労働基準法
まとめ
ここ数年、最低賃金は上昇傾向にあり、とくに主要都市では上昇率が高い傾向が続いています。
政府は2030年代半ばまでに全国加重平均で1500円の目標を掲げており、2024年の地域別最低賃金額改定でも引き上げられる見込みです。
その背景には物価上昇や人員不足などがありますが、企業側にとっては経営コストの上昇など事業の収益性に大きく関わるため、気になる方も多いでしょう。
最低賃金を守らなければ罰則もあるため、今後の発表に注意し、準備をしておきましょう。