歯科、整骨院などの雇用と給与計算業務 - 正確な労務知識による運用
歯科、整骨院の給与計算の特徴としては、①全体として労務管理や労働法の知識が不足しがちであること、②労働条件が明確になっていないこと、③労働時間の管理ができていないこと、④女性が多い職場であり、かつ、妊娠・出産による離職が多いこと、などが挙げられます。
正確な労務管理の知識と運用
まず①についてですが、経営者は普通は歯科の場合は歯科医、整骨院の場合には整骨師であり、歯の治療や整骨に関してはプロフェッショナルでも、給与計算をはじめとした経営についてはあまり得意でないという方も大勢おります。また、仮に経営の才能があったとしても、本業に追われて、十分に労務のことを勉強する時間が取れないのが現状です。
したがって、専門の担当職員を置く場合は別として、だいたい、経営者が労務に疎く、その結果として、職場において労務管理や労働法の知識が行き渡っていないのが現状です。
このことの対策としましては、経営者の方がそれらの知識を深めることがベストの解決方法ですが、本業が忙しくてそれもままならない場合もあるかと思われます。
現在では、給与計算業務などのアウトソーシングもだいぶ進み、多くの業務受託会社が存在しています。それらの会社では、労務に関する相談や労務管理全般の業務も受け付けるのが普通ですから、そのような専門機関に給与計算を含めた労務管理全般を委託するのも一つの方法です。
労働条件の明確化と書面による契約
②については、採用時に口頭により労働契約を締結することが少なくなく、労働条件が不明確のまま勤務をつづける労働者の方も多いです。労働条件を明示し当事者双方が納得したうえで働くことが、トラブル防止の観点から非常に大切になります。
採用時は、労働条件をお互いが確認するには絶好の機会ですから、このときには、その条件を明記した書面による労働条件通知書の交付や、労働契約書の取り交わしをしておくべきです。なお、この時に、誓約書、身元保証書、秘密保持誓約書などの提出も受けておけば、後々のトラブルの防止に役だちます。
労働時間の管理 - 時間外勤務、残業代の対応
③については、労働法関連法規の知識不足から、労働時間の管理ができていないところが多いことです。労働時間の管理が出来ていないと、サービス残業が発生していても、経営者は把握できません。
それが、従業員の退職の際に労働基準監督署に駆け込まれたり、内部告発などにより発覚すると、厄介なことになる場合があります。労働時間を把握してきちんと残業代を支払っていないと、給料を高めに設定して残業代は基本給に含まれているとかの言い訳をせざるを得なくなりますが、この言い訳は監督署には全く通用しません。
日頃から、労働時間の把握として残業がある場合にはその分の割増賃金をしっかり払わなければなりません。なお、時期によって業務に繁閑のある事業所の場合には、1ヶ月単位の変形労働時間制などを利用すれば、ある程度の残業代の節約ができます。
女性の雇用と労働条件の整備
④は、歯科や整骨院では、院長は男性が多いですが、その他の職員は女性が圧倒的に多いです。女性の場合は、男性の場合と異なり、妊娠や出産があります。このために、歯科や整骨院では、女性の方で妊娠や出産を機に退職される方が相当数いらっしゃいます。
この仕事は、勤務期間の継続によりある程度の技能の蓄積が可能ですから、技能を身に付けた方が妊娠・出産などを原因として退職されることは、使用者・労働者双方にとって、大きなマイナスになります。
労働基準法には産前産後休暇、育児介護休業法には、1歳未満の子を育てる労働者の休暇、3歳未満の子を育てる労働者に対する労働時間の短縮措置の実施義務、等様々な母性保護の規定があります。これらの制度を通じて、女性の労働者が妊娠や出産を機に退職せずに、従前の職場で働き続けることができるように配慮されておりますが、事業主の方も、代替要員や休暇取得後のことについてよく女性職員とよく話し合い、せっかく技能を身に付けた優秀な女性職員が退職して、双方に不利益が発生しないように、十分に配慮する必要があります。
一般的な就業規則の運用
最後に、就業規則について述べておきます。就業規則を作製すれば、今まで述べてきた全て問題について、効果的に対処できます。就業規則とは、常時10人以上の労働者を使用する事業所に作成が義務付けられている、事業所全体に適用される職場の服務規律です。
就業規則は、主要な労働条件についてはすべて規定する必要がありますから、これを制定し、かつ、労働者に周知すれば、職場の労務管理や労働法に関する知識の普及に大いに役立ちます。また、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日・休暇などについて明文で定めなければなりませんし、時間外手当の計算方法も明示しなければなりません。
ですから、労働時間の管理もしやすくなります。さらに、先に述べた変形労働時間制を利用しようとする場合でも、就業規則があった方が、その導入の手続きがスムーズに進みます。
また、妊娠や出産、育児に関する休暇や時間短縮措置も就業規則に明示しておけば、労働者がその制度を利用しやすくなり、結局は、女性の退職を防ぐことができます。このように、労務の問題は、就業規則の制定により、解決が容易になる場合が多々あります。10人以上の労働者のある事業所では、メリットの有無にかかわらず、作成が義務付けられておりますから、当然に作成しなければなりませんが、10人未満の小規模な事業所でも、余裕があれば作成することをお勧めいたします。