小売店、販売店の給与業務 - パート、アルバイトの待遇や雇用契約に注意
書面による雇用契約と労働保険・社会保険の加入
小売業・販売店の給与計算の特徴としては、まず第一に、パートやアルバイトが多く、勤務期間が比較的短いことが挙げられます。小売業や販売業の仕事は、レジ打ちや品出しという単純作業が多く、家計補助的な労働をする主婦や学生向きの仕事といえます。
また、一般的には、賃金の上昇率も鈍く、業務の継続に対するインセンティブも低くなります。働く側も、副業的な働き方をする方が多くなりますから、必然的に、勤務期間が短くなる傾向があります。
このような場合に心掛けたいことは、パートやアルバイトの契約は1年や6ヵ月単位の有期労働契約になる事が多いですが、いくら副業的な仕事といっても、労働者の雇用継続の意思を確認することを怠ると、この契約は更新の際によくトラブルになります。忙しい時だけの完全な有期契約であれば問題はないのですが、例えば6カ月契約の更新を繰り返して3年も5年も継続勤務するような場合には、特に雇止めの際に訴訟になったりして大きな問題が生じる場合があります。
従いまして、有期雇用契約の際に、書面による労働契約を結び、その中で更新の有無や雇止めや退職に関する事項をきちんと取り決めておく必要があります。また、パートやアルバイトと言っても、雇用保険の場合は、原則週20時間以上かつ31日以上勤務、厚生年金保険や健康保険は、正社員の1日の所定労働時間の4分の3以上及び正社員の月の所定労働日数の4分の3以上の勤務時間・勤務日数のある労働者は加入義務があります。
ですから、要件に該当した場合には、パート・アルバイトといえども、労働保険・社会保険に加入させなければなりません。
店長の責務と労働環境の整備
第二に、第一で述べたパートやアルバイトの多いことに対比して、店長等の店舗管理者の勤務時間が異常に長くなることが挙げられます。店長等は正社員として将来の会社の幹部として活躍することが期待されるわけですから、パートやアルバイトに比べて当然に責任が重くなります。
営業時間を主体に勤務すればよいパート等にくらべ、店長などは、営業時間はもちろんのこと、開店準備から開店後の後片付けまで全体の運営管理、従業員の指導、販売に関する企画立案、本部への報告等と数多くの業務を一人または少人数でこなすことになり、いくら能力が高くても、長時間労働は免れません。
このような場合には、店長等の健康管理に十分に配慮しなくてはなりません。
いくら重責を担うとはいえ、人間ですから、無理が続けばいずれは病気になります。労働安全衛生法では、月100時間超の残業がある一定の労働者が申出た場合には、医師の面接指導を受けさせるという使用者の義務が規定されております。このような労働者の健康障害の防止に関する規定を遵守する必要があります。
また、「名ばかり店長」というように、残業代の支払が不要になる管理監督者に該当しないにも関わらず、管理監督者に該当することにして、僅かばかりの管理職手当と引き換えに残業代の支払をゼロにして、労働時間や業務に関してほとんど決定権を持たない労働者であるところの若者を異常なまでの長時間労働に従事させるという事件が社会問題となっております。
この「名ばかり店長」の問題は店長などに業務が集中しやすい小売業に起こりやすいでが、これはほとんど犯罪ですから、絶対にこのようなことをしてはなりません。
変形労働時間制を利用した繁閑のばらつきへの対応
第三に、業務において、繁閑のばらつきがあることが挙げられます。小売業・販売業は客商売ですから、土・日・祝日には忙しく、平日には暇な事が多々あります。この場合に、普通の事務職のような労働時間を設定しておきますと、土・日・祝日などの繁忙期には残業が発生し、平日には、暇で手すき時間が相当あるというようなことになります。
このような場合、例えば、小売業で常時使用する労働者の数が30人未満であれば、1週間単位の変形労働時間制を利用して、忙しい日の労働時間を10時間、そうでない日の労働時間を6時間とするなどして、週平均で40時間を超えないようにすれば、忙しい日の残業代は不要になります。
また、商業を営む常時10人未満の労働者を使用する事業においては、法定労働時間を週44時間にする特例が利用できます。このように業務の繁閑に対応して、利用可能な労働時間制度の特例などを効果的に適用していくことが大切です。
その他、現金を扱う業務や通勤時の注意点
第四に、小売業や販売業の場合には、現金を扱う事が挙げられます。電子マネーによる決済もだいぶ見かけるようになりましたが、現在でも主流は現金決済あり、よって、小売業や販売業の場合に、従業員が現金に触れる機会が当然多くなります。
このような状況から、特に現金を扱う職種の従業員に対しましては、その人選を慎重かつ的確に行い、また、採用時に誓約書の提出を求めるなど、万が一の場合の予防に十分に留意する必要があります。
最後に、小売業・販売業では、バイク通勤や自転車通勤が多く、また、勤務時間が夜遅くに終了する場合も多々あり、その結果、通勤途上の交通事故が起こりやすい傾向があります。従いまして、日頃通勤途上の事故防止のための交通安全教育や、過労が交通事故の原因になる場合もありますから、適切な人員の配置により、一人一人が過度に疲労を抱えないようにする、などの配慮する必要があります。