レストラン、飲食店の給与計算 - 残業時間が長くなりがちな飲食業界
飲食店の給与計算の特徴として、次の5つの点が挙げられます。それは、①長時間労働、休みが少ない②人材育成が追い付かない③離職率が高く人の入れ替りが激しい④事故が多い⑤実力主義的傾向が強い、です。以下では、その特徴の説明とそれに対応して心掛けたいことを述べていきます。
1.残業など、長くなりがちな勤務時間
まず①についてですが、飲食店では、店舗の営業時間だけでなく、開店前にはその準備時間が必要ですし、閉店後には、後片付け、翌日の仕込みと、営業時間中にできなかった雑務等をしなくてはなりません。従いまして、長時間労働になりがちです。
また、恒常的な人手不足ですので、人員が足りない分を既存の従業員の残業でカバーする傾向があり、このことも長時間労働の傾向に拍車をかけます。これに対応して心掛けたいことは、労働基準法上の労働時間の特例や変形労働時間制を上手に活用することです。常時使用する労働者が10人未満の小規模な飲食店であれば、1週間の法定労働時間を44時間とすることができます。
また、変形労働時間制とは、1週間・1ヶ月・1年間等の一定の期間内を平均して労働時間が週40時間以内であれば、特定の日又は週において、1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えて労働させる事ができるという制度のことです。ですから、例えば、1年単位の変形労働時間制の場合、真夏や年末年始や年度末の繁忙期や週末に1日10時間の労働時間を設定しても、閑散期に1日6時間の労働時間を設定して、年を平均して1週間40時間以内に調整すれば、繁忙期の8時間を超える2時間分の労働時間に対して残業代を支払わなくともよいですよ、ということになります。
これらを十分に活用して、労務費の高騰を防ぐことが大切です。
2.人材育成の時間確保
②については、日常の業務に時間をとられて、研修や日常の指導などの人材育成がおろそかになりがちです。ですから、セクハラやパワハラ、不当解雇など、トラブルが発生し易くなります。
ですから、このことに関して心掛けたいこととして、日常の業務で忙しいところ、直接業務に関係しない事項について時間を取るのは大変な事でしょうが、最低限店長には、労務管理についてしっかりした研修を行う必要があります。
また、就業規則の作成義務は、常時10人以上労働者を使用する事業所にありますが、就業規則の作成はそういったトラブル防止のために役立ちますから、規模に関わらず、全くの他人を労働者として採用する場合には、できれば作成しておいた方がよいです。
3.パートやバイトも多く、人の入れ替わりの激しい職場
③は、飲食店は労働時間が長いことが多く、また大変な仕事ですから、それに我慢できない人はすぐ辞めることがあります。また、採用する方も、人手不足から採用審査の結果が審査基準を満たしていない場合でも、採用する場合もあります。そういった採用の場合、適性不足からすぐにやめる可能性が高くなります。
こられの要因が重なって、離職率は比較的高めです。このことに対応して心掛けたいこととしては、採用方法を工夫して、飲食店で働くにふさわしい適性を有するもののみを採用するようにするだとか、採用した場合には、せっかく採用した従業員ですので、育成方法を工夫するなどして意欲的に業務に取り組めるようにすることによって、離職者を減らすことが必要です。
なお、離職者が発生した場合に、その離職者に未払い残業代があると、労働基準監督署に相談して、あとから支払いを要求されることもあります。しかも、この業界は残業が発生しやすいですから、日頃から労働時間の管理と残業代の支払をしっかり行い、急な離職者が出た場合でも、慌てないようにしておくことが肝要です。
4.業務中、通勤中の事故などの対応
④については、飲食店では調理の際の事故や、労働時間が深夜に及ぶことが多く、帰り道での通勤事故が起こりやすくなります。
これに対応して心掛けたいこととしては、まず、安全に配慮した勤務体制をとり、繁忙期には十分な人手を確保し、一人一人の従業員に過重な負担がかからないようにすること。次に、過労が原因で事故に巻き込まれることが無いように、労働時間の管理には十分に配慮し、疲労のたまっているように見える従業員には休ませるなどの対策をとること。これらのことが挙げられます。
また、万が一、事故が起こってしまった場合には、それを隠すと、後から労働者が役所に申告して、労災隠しとして重い罰則を受ける事があります。起きてしまった事故はしかたありませんが、その後の事故対応として、それが業務上の原因と思われる場合には、しっかりと役所に報告して、労災であれば、労災による労働者への補償を受けさせる手続きをするべきです。
5.実力主義を採用する昇進、昇給体制
⑤についてですが、この業界の特徴として、若くても実力があれば店長などにどんどん出世し、また、年配でも実力がなければ、いつまでも平社員のままだという、実力主義的な傾向が挙げられます。したがって、このような傾向の中においては、給与や昇進のシステムも、年功序列的なものであれば、従業員のやる気を削いでうまく機能しない場合が多くなります。
そういう実態に合わせて、賃金や昇給のシステムも、それらが実績に応じて上昇するようなものにしなければなりません。ただし、実力主義を隠れ蓑にして、名ばかり管理職のように、若者に対し残業代を支払わずに、長時間労働に従事させるためのみに店長にするような違法なシステムが許されないことは、言うまでもありません。