NPO、NGOの給与計算 - 法令を遵守した労務管理の重要性
NPO、NGO法人の給与計算と特徴は、他業種に比べて、給与の変動が少なく、給与計算などの労務管理が簡単であるということが挙げられます。
例えば、小売業などでは、オーナーである店長、正社員、パート、アルバイトなど、複数の身分の社員が存在し、そのそれぞれについて給与を決定し、また、勤務期間や福利厚生、賞与や退職金などを決めねばなりません。
また、パートやアルバイトが多いと、当然に入職、離職が多くなりますから、その度に手続きが必要になります。また、社員の中に正社員だとか非正規だとか臨時だとかというクラスが存在する場合、職員間で摩擦が生じやすく、トラブルが多発する場合があります。
勤務シフトも24時間営業のところが増えておりますから、始業8時終業17時の標準的な労働時間制ではとても対応できず、複雑な3交代制などの勤務シフトを採用する必要があります。当然、深夜時間帯に労働時間がかかることもあり、また、人手不足を既存の職員の時間外労働でカバーする場合には、残業が発生しその手当の計算も行わなくてはなりません。このことが複雑さに拍車をかけます。
また、例えば、飲食業の場合には、厨房においてよく事故が発生したりするので、労働災害の防止に気を使わなくてはなりませんし、万が一、労働災害が起こった場合には、労災保険の手続きが必要になります。
さらに、夜間の営業が多いですから、帰宅時間が深夜になる事が多く、通勤による事故もよくおきます。このことの予防のために、交通安全の指導が必要になります。また、厨房での事故と同じように、通勤災害に対する労災保険の適用がありますから、事故が起こった場合には、労災の手続きが必要になります。
これらに比べて、NPOやNGOの場合、活動の主体はインターンシップの学生又は定年退職後の高齢者であり、法人から賃金を得て労働を行うのは、ごく少数の事務局の職員だけという事が多いです。
その職員の業務の内容も、通常の事務職と同じです。また、会社と異なり、財政規模も大きくありませんから、通常その職人の人数は多いことはありません。賃金は、法人の原則が非営利ですから、職員についても、特殊な手当により、職員の技能向上意欲を高めるだとかやる気を引き出すだとか、そういった考慮はあまり必要ではなく、功序列による昇給を考えれば十分であります。年功序列式の昇給は昇給の中では最も簡単な方式であり、簡単な数式により決定できる場合がほとんどです。法人の代表者などは、給与計算とは別の次元で報酬が決められますから、基本的には、賃金の決定は事務局職員に対応したシステムが一つあれば十分です。
勤務時間につきましても、24時間営業だとか深夜営業だとかとは無縁ですから、基本的には、標準的な8時17時の勤務時間をベースに決めておけば問題ありません。したがって、勤務シフトを組む必要はありませんし、深夜の割増賃金の計算もないとはいえませんが、小売業などに比べたら、その頻度は微少です。時間外労働についても、同様にないとは言えませんが、その量は少なく、変形労働時間制の導入を考えるまでもなく、残業代の支払が多すぎるだとか、未払いの残業代が発生するだとか、そういう問題が起こることは稀です。
業務内容は、一般事務がほとんどですので、労働災害について特別の配慮が必要だと言うことはありません。
職員は女性が多く、妊娠や出産による離職が問題となる事がないとは言いませんが、やはり、職員の数が少なく、また、賃金や業務の関係でしょうか、比較的高齢の女性の方が勤められることも多いので、それらの女性特有の問題が特に目立つことはありません。
また、NPOやNGOの理事や代表者となるような人は、通常は総会や理事会の議決を経て就任しますから、人格者が多く、もちろん、例外的にそういう人が事件を起こしたことも報道されますから全くないとは言いませんが、一般的には、パワハラやセクハラなどの労務上の事件は起こりにくい傾向があります。
そういった意味では、非常に安定したトラブルの少ない業界と言えます。とはいえ、労働関係が成立している以上は給与計算を正確に行い、また、労働関係法規の遵守が大切なことには変わりありません。NPOやNGO法人は、その資金は、政府機関や企業、多くの民間の個人の方々からの寄付が大半です。その事業もボランティアなどに大きく依存しています。また、活動内容も、公益的な事業であることが多いです。従いまして、その団体のイメージが非常に大切になってきます。そのような環境の中、残業代の未払いなどの労働法違反が表面化したりすると、その大切なイメージが大きく損なわれます。
そのような事件によるイメージダウンは、政府や企業、個人の寄付が減少する大きな要因となります。また、ボランティアの参加率が大きく減少するかもしれません。法人の存在自体が脅かされることにもなりかねません。幸いにして、他の業界に比べて、特に難しい労務上の問題はありませんから、そのような事態にならないように、日頃から、しっかりと給与計算、労務管理を行っていくことが肝要であります。