スタートアップの給与計算 - 会社の規模拡大とそれに合わせた整備
ベンチャー企業もスタートアップ企業も、既存のシステムに超えたイノベーションを行い、急速な成長を目指します。ベンチャーよりもスタートアップの方がよりその傾向が強く、年数十パーセントの成長ではなく、それ以上の爆発的な成長を目指します。ですから、会社組織だとか労務時間だとか、そういった形式にはとらわれず、数人メンバーががむしゃらに働いて、成功を目指す傾向があります。
しかし、最初はそれでもよいのですが、成功して規模が大きくなり始めたり、また、投資を受ける必要がある場合には、やはり、法人化することが必要になります。法人化すれば、当然に労働関係法令に従った給与計算や労務管理が必要になってきます。
そこで、その特徴などについてですが、ベンチャー企業などは、成功を夢見るあまり、極端な長時間労働となる場合があります。特にこういった企業は、イノベーションの発見など成果が重視されますから、成果を出せない場合には、際限のない長時間労働に巻き込まれる場合があります。
社員全員が役員で、労働に関して自分で自由に決められ、それなりに高額の報酬を受け、上司に労働時間や業務に関して指揮命令を受ける事がない場合は別ですが、だいたい10人以上の社員を抱えるよう規模の会社になりますと、全員が役員というわけにはいかなくなり、使用者と労働者に必ずわかれてきます。
そのような場合は、いくらベンチャーだとかスタートアップだとかいっても、労働基準法が適用されるようになります。ところで、その中で一番大切であると考えられるのは、残業代の支払です。残業代の支払は時間外労働を抑制する働きがあります。
まず、通常は、1日の法定労働時間の8時間を超えると、超えた時間1時間につき、通常の支払われる賃金の1時間当たりの単価に125%を乗じた単価を乗じた割増賃金の支払義務が生じます。さらに、残業時間が月60時間を超えた場合には、超えた時間1時間につき、同じく1時間当たりの単価に150%を乗じた単価を乗じた割増賃金の支払義務が生じます。
なお、この月60時間を超える残業に関する措置は、IT産業の場合で、常時使用する労働者数が300人以下、又は、資本金又は出資の総額が3億円以下の中小企業には適用されないこととされておりましたが、現在この中小企業への適用除外措置の見直しが検討されており、来年の4月には廃止になるかもしれませんので、注意が必要です。
このように、超過労働にはそれなりの費用がかかりますから、おのずから超過労働を削減する方向に流れるようになっています。よって、残業代さえしっかり支払っていれば、月100時間を超えるような極端な長時間労働を防止でき、過労による脳梗塞や心筋梗塞、うつ病などの精神疾患から労働者を守ることができます。
ベンチャーやスタートアップ企業では、パソコンによるが業務が多いと思います。このパソコンによる業務は、過度の長時間労働により労働者に精神疾患を発症させるリスクが比較的高いです。ですから、そういったことを防止するためにも、残業代の支払はそれを防ぐ安全弁のようなものですので、しっかりと行うべきです。
また、この割増賃金の制度は、現在は、労働者の経済生活の安定という従来の役割に加えて、長時間労働の抑制によって労働者の健康を守る役割も、非常に重要になってきております。成果主義も大切ですけれども、割増賃金の支払は、成果による側面だけでなくこういった重要な機能をいなっておりますから、成果の有る無しに関わらず、支払わなくてはなりません。
労働環境の整備
次に、ベンチャーやスタートアップ企業は、イノベーションが非常に大切です。このイノベーションは社員の良いアイディから生まれます。そういうよいアイディアを生み出しやすい労働環境をつくっていくことが大切です。
もちろん、労働者の残業手当をきちんと支払って労働者の健康の確保と「ただ働きをなくすことはいうまでもありませんが、手当などを効果的に設定して、みなが競ってよいアイディアを出すようにすることも大切です。また、よいアイディアを出すには人との交流が大切です。
日頃一人で黙々とパソコンに向かって仕事をする人も多いかと思いますが、例えば、社員食堂のメニューを増やして、また、価格も会社の補助で設定し、また、社員の方々がくつろいで、会話を楽しみながら食事ができるように、テーブルなどの配置や、休憩・休息時間の設定などを、工夫してみるのも良いかもしれません。非常に簡単な方法ですけれども、非常に有効な方法です。
規模の拡大に伴のなう社会的責任の増加
最後に、ベンチャーやスタートアップ企業の場合、企業の成長にばかり目が行って労務は比較的軽視されがちです。仲間内だけの小規模な会社であれば、労務などはほとんど問題にはなりませんが、規模が大きくなって、外部から他人を労働者として採用するようになってくると、社会的責任が生じ、自分たちの利益のみを追求しているわけにはいかなくなります。
この社会的責任は、労働関連法規の遵守によって果たされます。規模が大きくなっても、立ち上げ当初の仲間がみなサービス残業や労働基準法の限度枠を超える長時間労働があたりまえであったからといって、それらを外部から採用した労働者に対しても適用すると必ず問題が発生します。労務問題は、社会保険料や労働保険料の支払い、福利厚生費の増大、残業代の支払と、頭の痛い事ばかりです。しかも、場合によっては、そのために、企業の勢いが止まってしまう事もあります。しかし、会社の利益と人を雇う者の社会的責任の両方が実現できる方法をなんとかして探していくよりほかはありません。