制作会社の給与計算 - 専門業務型裁量労働制の適用と成果主義的な待遇
製作会社の給与計算の特徴として、まず最初にあげられるのは、時間外労働についてです。製作会社の業務は、何時間働いたかより、労働によって何を生み出したかのほうが重要です。したがって、労働時間ではなく労働の成果によって賃金を定めるべきだという考えが適用しやすい世界であるともいえます。
ですが、この考えは、仕事の成果が生み出せない場合に、極端な長時間労働、しかも、それに対して、成果が上がっていないのだから、残業代を払わない、という場合を誘発しかねません。
この考えが蔓延すると、最終的には、長時間労働に歯止めがかからなくなって、重大な労災事故を引き起こす原因となったりします。従いまして、たとえ、成果主義的な給与体系であっても、原則として、残業に対して残業代の支払いが免除されることはありませんから、成果があるとかないとかにかかわりなく、しっかりとそれを払うべきです。
専門業務型裁量労働制の利用
なお、製作会社も、場合によっては、労働基準法上の専門業務型裁量労働制が利用できる場合があります。この専門業務型裁量労働制は、労使協定により、対象業務、1日当たりのみなし労働時間、労使協定の有効期間など、一定の事項を定めれば、労働者を対象業務につかせた場合、実際の労働時間にかかわらず、この労使協定で定めた時間を労働時間とみなす、というみなし労働時間制の一種であります。
この対象業務には、ゲーム用ソフトウェアの創作の業務、プロデューサー、システムコンサルタント、新聞・出版・テレビ・ラジオなどの取材、編集の業務などです。
製作会社の業務にこれらの業務が含まれる場合には、こちらの専門業務型裁量労働制を利用することができます。
ところで、この「みなし労働制」は、実際に働く時間と、賃金計算の基礎となる労働時間が異なるわけですから、場合によっては、割増賃金の支払による長時間労働抑制のシステムが働らかなくなり、労働者に過度な長時間労働を強いる結果になる場合もあります。
しかし、このみなし労働時間制は、労使協定により定められ、その労使協定では、この制度が適用される労働者の苦情処理に関する措置を講ずることや、おなじくこの制度が適用される労像者の健康や労働時間の把握に関する事項を、取り決めねばならないことになっており、労働者の安全確保に関して一定の配慮がされております。
この点が、「名ばかり管理職」のような非合法な残業代の支払回避の方法と根本的に違うところです。この専門業務型裁量労働制の採用により、労働者の側では、労働時間による拘束が解けて自由に自分の労働時間を決めることできて能率が上がり、一方、使用者側では合法的に残業代の節約ができるという、両方がメリットを享受できる場合もあります。従いまして、この制度の利用できる場合には、それを検討してみることをお勧めいたします。
成果主義的な給与形態、待遇
次に、この業界は、優れたアイディアをもった優秀な社員を一人でも多く確保することが重要です。従いまして、賃金や福利厚生、休日・休暇、職場環境などを適切に設置して、優れた人材が集まって定着するようにする必要があります。
ちなみに、厚生労働省で出している平成24年度賃金構造基本統計調査によると、12か月分の給与と年間賞与を合わせた年収は、学術研究・専門技術サービス、男性40歳から44歳で、429.6万円、女性40歳から44歳で303.5万円、同じく生活関連サービス・娯楽業で、男性40歳から44歳で、330.9万円、女性40歳から44歳で237.7万円です。
専門技術サービス系の方が、娯楽業よりも相当に高額ですが、制作会社がどの業務を担当するかに応じて、これらの統計数字を参考にしつつ、適切な給与や賞与の水準を参考にしていくことになります。
その他にも、すぐれたアイディアを発案した者に対する特別手当、完全週休2日制の導入や夏季や冬季の特別休暇の設定、また、場合によっては企業年金の導入による退職金の充実などが、優秀な社員の採用や定着のためには有効な手段です。
なお、成果主義的な賃金設定も、一定の場合には、会社の業績に貢献し、優秀な職員の定着に、又は、職員全体のレベルアップに貢献する場合があります。特に、制作会社はクリエイティブな仕事が多いですから、この傾向は強いと言えます。しかし、過度な成果主義は、不必要に社員間の競争心を刺激し、職場の和を乱す場合もあります。
成果主義の反対は年功序列型賃金や、成果ではなく時間により賃金を支払う従来型のシステムのことですが、これらのシステムには労働者の保護やその生活の保証という考えが背後にありますから、成果主義的賃金の導入した場合でも、あるていどは、これらの従来型のシステムの要素も残しておかなければなりません。
給与計算や労務管理の全てのことについていえる事ですが、利益の確保と労働者保護、この2つの矛盾した条件を上手く調和させること、これに企業経営が上手くいくか否かがかかっているといっても過言ではありませんが、ここでも、成果主義的賃金制度と、従来の労働時間によって賃金を決めるやり方の両方を上手に調整をしていかなくてはなりません。